第73章 犬に噛まれた

南坂海乃が外へ出ると、ちょうど彼女を探していた野口颯汰と鉢合わせた。

野口颯汰は、艶のあるふっくらとした彼女の唇を見て、視線が一瞬だけ陰る。

「海乃、いったい……」

唇に残るひりつきを自覚した海乃は、苛立ちを隠さず口を開いた。

「犬に噛まれただけ。……それより先輩、さっき言ってたデータ、出たの?」

「出た」

歩きながら、野口颯汰は低い声で言う。言葉の端々に、妙な安心感がにじむ。

「血液検査の結果が出た。米澤奈々香の血算に変動がある。ほぼ確実に、自殺の二日前から薬を止めてた」

「……うん。その結果なら、研究所の無罪の材料にはなるね」

海乃は頷いた。けれど胸の奥で引っかかってい...

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